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修士論文・要旨(宮本)

郊外団地における男性退職者の場所の再構築
―兵庫県明舞団地を事例として―

人間環境学専攻・社会環境論コース
宮本真樹
指導教員 澤宗則准教授


本稿は、退職後の生活や意識変化に着目し、兵庫県明舞団地における男性退職者を対象とした調査結果をもとに、男性退職者の場所の再構築の様相と過程、そのなかに見られるジェンダー関係について分析を行ったものである。
本稿では、ジェンダー化された空間として郊外団地を捉えている。戦後開発された郊外団地の多くでは、人口減少や少子高齢化などの問題が深刻化しており、これらは、計画的な開発の中に含まれなかった現在になって明らかになった「ほころび」として捉えることができる。さらに本稿では、近年増加している男性退職者の存在も、職住分離を基本とする空間における「ほころび」として注目をし、ジェンダー役割が色濃く埋め込まれている空間における男性退職者たちの退職後の行動に見られる場所の再構築の様相や過程をみることで、空間に潜むジェンダー関係を明らかにすることを目指した。加えて、過去の研究において「均質性」を特徴として捉えられてきた郊外空間における生活者たちの多様性や異質性の可能性を示すことも試みた。
前半部分では、郊外や住宅、居住地を扱った地理学やその他の学問分野の既往研究の整理をし、本稿における基本的なタームの定義、研究の位置づけ、分析の枠組みの設定を行った。本稿では、男性退職者の意識や行動の中に潜むジェンダー関係を明らかにするために、人文主義的アプローチの立場をとっている。ただし、解釈の問題性や方法論的な課題性など、このアプローチの弱点を補うため、思考の背景としてマルクス主義的観点も導入し、郊外団地の捉え方の前提と分析枠組みとしてジェンダー概念を取り入れた。本稿の主要テーマである「場所」の定義についても、人文主義的傾向を重視しつつもマルクス主義的な見方を取り入れた両義的なものとして、また歴史や社会関係・社会構造を背景にふくめたものとして幅広い範囲で定義をしている。このうえで、本稿において「場所の再構築」とは、ジェンダーに規定されながらも、男性たちがアイデンティティの拠り所としていた職場つまり「場所」を失った者たちが、新たに自分の役割意識を持てるような活動や意識の獲得やその獲得までの過程を指し、具体的な活動だけでなく交友関係などの人的関係なども含めており、場所の概念同様に幅広い捉え方をしている。また、研究枠組みにジェンダー概念を導入するにあたり、地理学とジェンダーの歴史を踏まえながら、郊外空間に潜むジェンダー関係について整理をした。男性優位社会における女性に対する制約や障害となるような社会権力構造の存在を示すと同時に、男性への注目の必要性を示し、女性の差異だけでなく男性の差異に注目することでジェンダー社会の構造をより詳細に見ることができることと、地理学においても男性を対象とした研究が少ないことを背景として、本稿のように、郊外団地における男性退職者を対象とする研究に一定の意義があることを明らかにした。
後半部分では、兵庫県明舞団地の概要と現在の郊外団地に見られる問題や課題などについての状況を示し、他の郊外団地と同様に明舞団地も変容の時期に来ていることに注目し、フィールドとして取り上げる意義があることを示した。本稿では、明舞団地に居住する男性退職者を中心にインタビュー調査を行った。以下に、調査結果の報告と分析、まとめを記す。
男性退職者は、退職をきっかけとして、大きく分けて三つの道に進むことになる。一つ目は、再就職などの雇用関係の継続・勤労の継続である。二つ目は、自治会活動も含めた、地域での活動またはボランティア活動、三つ目は、趣味活動やそのほかの活動への専念、もしくは無気力的な生活や困惑した状況への移行である。これらの三つの進路について絶対的な基準を設けることは困難であり、各住民の退職後の活動がどれか一つに絞られるものとも言い切ることができない。三つの方向性が各住民の生活のなかにいくらかの割合で併存しており、これらの相互関係を通して男性退職者にとっての日々の活動場所が決定される。そして、これが男性退職者個人の場所の再構築に大きく貢献している。これらの進路決定に影響するのは、在職中や退職間近における仕事以外の経験・知識である。これらは、定年延長や再就職なども終えた完全な退職が訪れたときの生活リズムや生活意識、価値観などの変化の大きさに耐えたり、退職後の選択肢を広くもつために重要な要素となる。
しかし、退職後の活動場所の確保によって生活に対する一定の満足感や充足感は得られ、場所の再構築の可能性を高めるが、場所の再構築が完全に成立しているとは言い切れない。退職後の現実と、各個人が抱く、「はたらく」ことについての価値観や生活の在り方についての意識、さらには活動に対する意欲などの間にはある種の格差が存在する可能性があり、そこから生じる葛藤によって、日々の活動や生活状況についての満足度が低い場合が確認されたのである。そして、ジェンダー規範やジェンダー化された郊外団地という空間そのものが、この状況をもたらす原因として作用することが明らかになった。
また、郊外団地の男性退職者の活動は空間的制約を受けない側面があるが、これは退職者たちに空間的制約がないと捉えるか、男性退職者が空間から排除される存在であると捉えるかの両義的な解釈が可能である。郊外団地には、住宅が多数を占め、商業施設は少数しかなく、娯楽施設などにいたっては極めて少ない。空間内の構成要素が他の地域よりも特化しており、まちづくりやコミュニティ活動などの種類も限られていることが多い。これが退職後の場所の再構築における葛藤や活動選択における両義的な解釈をもたらすものであり、郊外団地内での男性退職者の場所の構築に大きな影響を与えている。また、男性の退職後の活動種類の多さや活動範囲の広さについては、ジェンダー構造の維持として捉えることもできる。男性退職者は退職後に家事を負担することが少なく、くわえて地域や家に関係する活動を選択する必要性を女性ほど感じていないことが多い。しかし、自治会活動などの地域に密着した活動へ向かう男性退職者の存在には注目するべきであり、郊外団地における男性退職者の郊外団地における「場所」の再構築の可能性を示すものとして捉えることができる。しかし、地域での活動の場に男性が入ることによって、男性中心主義が強まる可能性も指摘できるなど、郊外団地空間内外に関わらず、男性退職者の「場所」の再構築には、ジェンダー化された空間の中に潜む、資本主義的傾向とジェンダー関係の再生産をみることができる。
 郊外団地における男性退職者と他の地域における男性退職者との場所の再構築には、共通点と相違点が存在した。共通点は、活動の種類や活動の方向性の類似性であり、相違点は、郊外団地という空間的特性に基づく活動範囲の限定や空間的自由/排除の両義的な関係性が見られることであり、集中してジェンダー規範や意識が強化された現象が表れる傾向がみられることである。しかし、男性退職者を取り巻く環境や日々の生活の状況は、一様な側面を持ちつつも個人によって多様である。同じ活動をする人々でも、活動や生活に対する個人の意識は様々であり、「場所」の再構築にも多様性が認められる。かつて「均質」と言われた郊外空間は、男性退職者という存在にも多様性が生じており、ジェンダー規範を持つ空間的装置としての役割を持ち続けるなど、均質性の継続と同時に多様性が顕在化していることを指摘できる。
男性退職者を団地内の活動に呼び込むことは、様々な問題を抱える郊外団地において、問題の解決を図る一つの方法である。各地のニュータウンや団地では、退職後の男性の存在が重要視されている。明舞団地においても退職者を地域の担い手として捉える傾向があり、それが退職者男性の「場所」の再構築へと貢献していることが明らかになった。だが、団地内では、コミュニティやその他の活動場所や種類が少ない傾向にあり、この特質が男性退職者の場所の再構築における制約や障害として働く可能性があることに注意が必要である。地域活動を通じたコミュニティへの回帰志向は、人間関係が希薄とされている郊外での地域連帯意識を生み出すきっかけをつくる可能性は持つが、コミュニティの活動へと一方的に押し付けることでは、本当に問題が解決されたとは言えない。「男性は退職後に地域社会に入るべき」という構図を作り出してしまえば、それは郊外開発時期から現在まで引き継がれる資本主義社会、ジェンダー規範などを黙認することになりかねないうえに、ジェンダー規範を含む社会構造の維持や再生産をもたらす可能性がある。したがって、男性退職者の多様性を配慮しなければならないのであり、郊外団地でのコミュニティの在り方やネットワークの持ち方、活動の在り方への多様性を認めた柔軟な考え方が必要なのである。ジェンダー化された空間内での生活を積み重ねてきた男性たちは、退職というイベントまたは退職後の変化に対応できない可能性が特に高い。一方的に退職後の在り方を押し付けるのではなく、個人の状況にあった場所での活動が望ましいのであり、そのためには、個人の意識や個人を取り巻く環境などを形成する社会構造の分析が必要となる。
様々な問題を抱え、再生の可能性を探し求めている郊外団地は、現在の問題の中に潜む過去の歴史やその社会構造の様相を解明し、現在につなげる可能性を秘めており、まさに「転換期」の時期に来ている。本稿では、ジェンダー化された空間として郊外団地を捉え、男性退職者の場所の再構築の様相と過程に注目することで、郊外団地のなかでジェンダー関係の再生産がみられることを示すことができた。加えて、男性退職者という個人の意識や行動へのアプローチによって、郊外の住民の多様性を示すことができたことと、個人の意識を通して郊外空間全体に含まれる社会構造を解明し、今後の郊外団地に見られる多様性の可能性と郊外空間の再生の方向性を示すことができた。
なお、最後に、男性退職者というカテゴリー化に関する反省や調査対象の偏りから多様性を描ききれなかったことへの反省、他のアプローチや分析方法による分析可能性への示唆、一般地域と郊外団地における男性退職者の相違点の分析についての課題性、ジェンダーを扱う筆者のポジショナリティの問題性などについて言及し、これらを本稿の課題とした。
男性退職者もその可能性を秘めている。今後の郊外団地では、過去の反省点や改善点を取り入れた再生計画が実施されていくことはもちろん必要であるが、問題として表れているさらに奥の状況や社会的背景、個人における意識などを丹念に見ることが重要になる。郊外団地は、過去に強くジェンダー化された空間として開発されて以後、ジェンダー関係を生産・再生産をする装置として機能してきたが、それは現在においても継続している。


2009-02-03 15:08 : 大学院ゼミ情報 : コメント : 0 :
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